【記事監修】
あさくさ橋心臓と血管のクリニック
院長 高橋 保裕
下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医・指導医(https://www.jevlt.org/ja/)
循環器専門医
心血管カテーテル治療専門医
開院前に勤務していた大学病院や地域中核病院では、1万件近い心臓や末梢血管のカテーテル治療に携わり、様々な症例に対して豊富な治療経験を持ちます。
近年では「ライブデモンストレーションのライブオペレーター」として各学会に招待され、カテーテル治療を学ぶ多くの医師の前で治療を行うなど、技術指導者としても活動しています。
「患者様を自分のたいせつな家族と思って診療する」をモットーに、下肢静脈瘤日帰り手術(カテーテル治療)や一般循環器診療を行っております。
血圧とは
血圧とは、心臓から全身に送り出された血液が血管の壁を押すときの圧 力のことで、心臓が収縮したり拡張したりすることで発生します。血圧の値 は、心臓から押し出される血液量(心拍出量)と、血管の収縮の程度やしな やかさ(血管抵抗)によって決まります。上の血圧は、心臓が収縮し血管にもっとも強い圧力がかかっているときの 値で、収縮期血圧と呼ばれています。下の血圧は、心臓が拡張しているときに血管にかかる圧 力の値で、拡張期血圧と呼ばれています(心臓から血管へ血液が送られない状態であり、拡張期血圧は収縮期血圧より低くなります)。つまり心臓が1回収縮し拡張するごとに上の血圧と下の血圧が生まれます。
高血圧とは
様々な原因で動脈が硬くなったり、ホルモン異常による血管の収縮や心臓から押し出される血液の量が多くなったりすると、血圧は上昇します。ただし、血圧は運動、緊張等によってたえず変化しているため、高血圧とは緊張していない安静時に持続的に血圧が上昇すすることをいいます。高血圧の診断基準は、診察時140/90mmHg以上になります。なお、自宅で測った場合には、135/85mmHg以上です。診断基準が異なっているのは、自宅では緊張しないため、正確に血圧を測ることができるからです。高血圧が進行してしまうと、脳卒中や心筋梗塞を発症する可能性が高まります。そのため、高血圧といわれた場合には、速やかに治療を受けましょう。血圧をコントロールしていくことが大切です。
最高血圧・最低血圧とは
心臓は収縮と拡張の繰り返しによって、体内に血液を送っています。心臓が収縮すると血管に強い圧力がかかり、拡張するときには圧力が弱まります。最高血圧とは、心臓の収縮によって、血圧が最高になった際の値です。一方、最低血圧とは、心臓の拡張によって血圧が最低になった際の値です。
診察室血圧と家庭血圧とは
運動や緊張等によって、血圧は変動します。
診療室血圧とは、クリニックや病院で測った際の血圧のことですが、多くの方はクリニックや病院に来ることで緊張してしまいます。そのため診察室血圧は本来の安静時の血圧よりも高くなります。一方、家庭血圧は、自宅で安静にした状態で測定した血圧であり、通常は診察室血圧よりも低くなります。最近の研究で、脳心血管病(脳卒中や心筋梗塞など)の発症を予測する方法として、診察室血圧よりも家庭血圧の方が優れていることがわかってきました。家庭血圧は治療を行う上でも非常に大切な情報です。自宅で血圧を測ることを習慣にしましょう。
家庭血圧の測り方
家庭血圧は朝と夜の1日2回、座位で測定します。測った血圧値はすべて血圧手帳などに記録しましょう。また、フラフラしたり、めまいや頭痛などの症状がみられたりしたときにも血圧を測定してみてください。血圧が下がってフラフラしたり、血圧が上がって頭が痛くなったりすることもります。血圧を測る時は測定条件を守りましょう。とくに、歩いたりした後ではすぐに血圧を測らず、座って1-2分間の安静を保ってから測るようにしてください。血圧計は、上腕にカフを巻くタイプがベストです。手首に巻くタイプは、値が不正確になるときがあるので注意が必要です。
高血圧の原因
高血圧のほとんどは、遺伝的な要因と生活習慣(食習慣、運動習慣、喫煙、飲酒)が大きく関与しています。生活習慣の悪化は、高血圧以外の糖尿病や脂質異常症といった動脈硬化を進行させる病気の原因にもなります。動脈硬化により硬くなった血管は、血圧が上昇しやすくなり、高血圧を悪化させる悪循環に陥ります。なお、高血圧は遺伝や生活習慣以外にも他の病気(ホルモンの分泌異常など)や薬剤によって発生する場合もあります。健康診断等によって高血圧と指摘された場合には、原因をチェックすることも非常に大切であり、それにより適切な治療を受けることができます。
本態性高血圧と二次性高血圧
高血圧は、原因をひとつに定めることのできない本態性(ほんたいせい) 高血圧と、原因が明らかな二次性高血圧に分けられます。日本人の高血圧の約8~9割が本態性高血圧で、遺伝的要因や食塩の過剰摂取、肥満などの要因が組み合わさって起こります。中年以降に指摘され、親が高血圧の場合に起こりやすい高血圧といえます。生活習慣の改善がきわめて大切です。これに対し、二次性高血圧は、①腎臓の働きが悪くなって塩分と水が排出されにくくなる場合、②内分泌の病気によって血圧を上げるホルモンが体の中に増える場合や、③血管の病気が原因、④薬剤による原因、で起こります。原因を明らかにしてそれを取り除くことが できれば、血圧の正常化が期待できます。一般に、二次性高血圧は、若い人に多くみられます。
高血圧の症状
高血圧であっても自覚症状はありません。そのため、気づいた際には進行している場合があります。一般的に、血圧の数値が高くなると、めまいや頭痛等を起こしやすくなりますが、それは血圧が180以上などかなり高値になったときです。症状がない状態でも動脈硬化は促進され、心筋梗塞や脳梗塞になってしまいますので、めまいや頭痛などの症状がない状態で血圧を正常化させることが非常に大切です。また、血圧が150-160に上がって頭痛がすると訴える方がいらっしゃいますが、多くの場合、血圧以外の原因で頭痛があり、痛みや精神的緊張で血圧が上がっているケースです。そのような場合には、血圧以外に頭痛の原因をチェックし、改善することで血圧は改善します。
高血圧の治療
ここでは本態性高血圧の治療についてお話しします。治療の基本は生活習慣の改善です。生活習慣の改善でも血圧が正常化しない場合には、薬物療法が必要です。
生活習慣の改善
①食塩制限(減塩)
健康な日本人の成人男女が当面目標とすべき1日の食塩摂取量は男性7.5g未満、女性6.5g未満とされていますが、高血圧の人は1日6g未満が目標です。ちなみに日本人の平均塩分摂取量は男性で1日約12g、女性で1日約10gとかなり多くの塩分を摂取していることになります。いきなり1日6g未満に減塩にすると体調を崩すこともあるので、少しずつ摂取量を落とすようにしましょう。個人差はありますが、本態性高血圧患者では食塩摂取量を1日1g減らすことで平均1mmHg強の収縮期血圧の低下を期待できます。日本高血圧学会減塩委員会のウェブサイトでは多数の優良で美味しい減塩食品を紹介していますのでご参考にしてください。(http://www.jpnsh.jp/general_salt.html)。
② アルコール
飲酒後は血管が拡張し、血圧は下がりますが、継続して一定量以上を飲むと血圧は上昇し、高血圧の原因になります。多量の飲酒は高血圧以外にも脳卒中や心筋症(心臓の筋肉が動かなくなる病気)、心房細動、夜間睡眠時無呼吸などの病気を引き起こすといわれています。アルコール自体の量で男性20~30mL/日以下、女性10~20mL/日以下に控えましょう。 アルコール20~30mL/日は、おおよそ日本酒1合、ビール中瓶(500ml)1本、焼酎半合、ウィスキーはダブルで1杯、ワインは2杯が目安です。
③ 運動
適度な運動は、血管の内側にある血管内皮細胞の機能を改善し、動脈硬化を予防する働きがあります。また、高血圧と密接に関連する糖尿病や脂質異常症の改善にもつながります。運動の内容は、速歩・スロージョギング・ランニングのような有酸素運動が推奨されています。運動の強さも、ややきつい程度にとどめます(汗をじわーっと掻く程度)。時間は毎日30分以上、または週180分以上が目安です。これは腰や膝などに問題のない方の目安であり、整形外科的な病気をお持ちの方は、腰や膝などに負担のない運動にとどめましょう。まとまった運動の時間を取れない方は通勤時に一駅分歩いたり、自転車を徒歩に替えたりするなどの工夫をすることが大切です。
④ 薬物療法
高血圧の薬を降圧薬(こうあつやく)と呼びます。降圧薬による治療は、生活習慣を改善しても血圧が目標までなかなか下がらない場合に行います。血圧を下げる薬には多くの種類があり、医師は病状に応じて薬剤を選択します。1種類の薬剤で目標血圧まで下がる場合もありますが、2種類以上の薬剤を組み合わせなければ目標血圧まで下がらないことも多々あります。診察時に多くの患者様が「血圧の薬は、一生飲まないといけなくなるから飲みたくない」と言われます。高血圧の治療目標は、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化の病気を予防することです。降圧薬を服用し、血圧を永続的に目標血圧内に納めることで、動脈硬化の病気を予防することが可能になります。降圧薬は血圧を上昇させる大元を治しているわけではなく、血圧が上がる途中の回路を遮断しているだけであるため、降圧薬を止めてしまうと、血圧は再び上昇し、動脈硬化を予防することができなくなるのです。医師から「血圧の薬を飲みましょう」と言われた方は、血圧を永続的に良い状態に保つことの重要性を正しく理解していただくことが大切です。